記事の監修
株式会社リアルプロモーション 代表取締役松本剛徹
2011年に株式会社リアルネットを創業して、20代経営者ベストベンチャー30に選出される。
現在、全10事業を多角的に展開し、AI・教育・Webマーケティング・プロモーションなど4社を経営。
グループ年商は20億円を突破。事業売却や事業譲渡、会社売却を経験してきたシリアルアントレプレナー(連続起業家)として活躍中。
「新規事業で経営を成長させたい」そう考える経営者はたくさんいます。しかし実際のところ、新規事業戦略の方向性を的確に見極めるのは、非常にむずかしいものです。
そういった経営者の大きな助けとなるのが、今回紹介する「アンゾフの成長マトリクス」と、各種フレームワークです。
もしかすると、有名な3C分析などのフレームワークは知っていても、アンゾフの成長マトリクスは今回はじめて聞いたという人も多いかもしれません。
そこで今回は、新規事業戦略の立案に役立つ「アンゾフの成長マトリクス」を中心に、代表的なフレームワークの概要をご紹介していきます。
また、成功する新規事業の戦略を立てるポイントにも触れていくので、これから新規事業の立ち上げを検討している経営者のかたは、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
アンゾフの成長マトリクスで新規事業の戦略ベースを検討
※参考:「アンゾフの成長マトリクス」 | 経済産業省 中小企業庁
「アンゾフの成長マトリクス」というのは、アメリカの経済学者が提唱した、新規事業立ち上げの方向性を決めるためのフレームワークです。
なんといっても、「経済産業省 / 中小企業庁」の中小企業向け総合支援サイトでも紹介されているくらいですから、その効果については国のお墨付といってもいいでしょう。
この章では、アンゾフの成長マトリクスが掲げる4つの戦略パターンについて、わかりやすく解説していきます。
- 既存製品 × 既存市場「市場浸透戦略」
- 新規製品 × 既存市場「新製品開発戦略」
- 既存製品 × 新規市場「新市場開拓戦略」
- 新規製品 × 新規市場「多角化戦略」
それでは、ひとつずつ見ていきましょう。
1.既存製品 × 既存市場「市場浸透戦略」
アンゾフの成長マトリクスのベースとなるのが、この「市場浸透戦略」です。既存市場で既存商品を伸ばしていく戦略のため、厳密には新規事業ではありませんが、既存事業の安定があってはじめて新規事業を手がける余裕が生まれます。
そういった意味では、経営者として、まずなによりも最初に検討すべき戦略といえるでしょう。具体的な検討事項としては、以下のような要素が考えられます。
- ひとりあたりの購買数を増やす
- 購入金額を増やす
- リピート回数を増やす
クーポン券の発行やほかの商品とのセット割引など、消費者の購買意欲が増進する販売方法を、いろいろと検討してみてください。
2.新規製品 × 既存市場「新製品開発戦略」
2つめの「新製品開発戦略」は、文字通り、新規製品を既存市場に投入していく戦略です。ベースとなるのはあくまでも既存事業であり、既存事業のバリエーションを増やす戦略と考えると、スムーズに理解できると思います。
新製品開発戦略と聞けば、すぐに頭に浮かぶのは、やはり食品業界でしょう。たとえばポテトチップスを例にあげると、定番のうす塩味をベースとして、のり塩味・コンソメ味・フレンチサラダ味など、バリエーションが非常に豊かです。
しかも、「北海道バターしょうゆ味」「瀬戸内レモン味」のように、地域限定フレーバーも多数ラインナップされています。
新製品開発戦略は、開発コストや設備費の増大など、前述の市場浸透戦略よりもコストとリスクは高くなります。しかし魅力ある新商品を出せれば、飽きによる購買意欲の減退を回避でき、リスクを上回る収益が得られるかもしれません。
このように新製品開発戦略では、リスクとリターンに関する想定の精度が、とても大きなポイントになってきます。
3.既存製品 × 新規市場「新市場開拓戦略」
「新市場開拓戦略」は、さきほどの新製品開発戦略とは逆に、既存製品を新しい市場に投入する戦略です。
「これまで日本だけで流通していた商品を海外でも販売する」あるいは「実店舗だけで販売していた商品をネットショップでも展開する」など、その方法はいろいろと考えられます。
また、場所的な視点ではなく、これまでとは異なるターゲット層にアプローチをかける方法もあります。
学研が不定期で発行する「大人の科学マガジン」は、それまで子ども向けであった科学関係の工作物キットを、大人向けにターゲット変更して成功しました。1番人気の「ピンホール式プラネタリウム」は、なんと50万部も売れたそうです。
新市場開拓戦略の場合、どうしても新規市場の調査・分析コストはある程度かかってしまいます。しかしうまくいけば、大幅な収益の増加が見込めます。リスクヘッジは必要ですが、積極的に検討する価値は非常に高いといえるでしょう。
4.新規製品 × 新規市場「多角化戦略」
最後に紹介するのは、新規製品を新規市場に投入する「多角化戦略」です。おそらく、一般の人が新規事業としてイメージするのは、この多角化戦略でしょう。
これまで築いてきたリソースを活用する余地が極端に少ないので、これまで紹介した3つの戦略と比べて、比較にならないほどリスクは高くなります。
多角化戦略にはさらに以下4つの方向性があり、どの方向性に進むのかは、自社の状況を客観的に分析して決定する必要があるでしょう。
- 水平型多角化
- 垂直型多角化
- 集中型多角化
- 集成型多角化
個人的にオススメなのは、垂直型多角化です。ワインの輸入販売代理店が自社でワイナリーを経営するといったように、上流工程(下流工程の場合もあり)に進出して、総合メーカーを目指すパターンがこれに当てはまります。
垂直型多角化では、なんといってもムダな中間マージンの削減や、ブランドイメージの強化が大きな魅力です。
なお、多角化戦略については、別記事で詳しくまとめています。多角化戦略の詳細はそちらの記事でご確認ください。
新規事業の戦略にはフレームワークによる分析が不可欠
アンゾフの成長マトリクス以外にも、新規事業の戦略構築に役立つフレームワークはたくさんあります。ここでは、経営者なら必ず知っておくべきオススメフレームワークを、3つご紹介していきます。
- 自社と競合企業の違いが明確に「3C分析」
- マクロ環境による影響がわかる「PEST分析」
- 経営資源が多い企業にオススメ「VRIO分析」
自分が必要だと思うフレームワークから、順番に試してみてください。
自社と競合企業の違いが明確に「3C分析」
「Customer(市場)」
「Competitor(競合)」
「Company(自社)」
3C分析とは、上図のとおり、Cを頭文字とした重要な3要素から、事業を分析する手法です。外部要因(市場・競合)と内部要因(自社)の状況を照らし合わせて、「KSF」(事業を成功させる要因)を導き出していきます。
ただし3C分析の主な目的は、分析に必要な情報収集です。
たとえば、ニトリを例に考えてみましょう。インテリア業界の売上トップは「ニトリ」で、2021年2月期の売上高は、対前年比111.6%の7,169億円でした。一方、業界2位「良品計画」の21年8月期の売上高は、対前年比112.9%の4,523億円です。
3C分析において、「ニトリと良品計画の売上高は2,646億円差がある」というのは単なる事実であり、これから分析をするための材料のひとつでしかありません。
「2,646億円」という売上高の差が自社戦略にどのような影響をもたらすのかは、「SWOT分析」で、別途分析していきます。「SWOT分析」については、別記事で詳しく解説しているので、そちらの記事をご参照ください。
マクロ環境による影響がわかる「PEST分析」
新規事業の戦略を検討する際には、どうしてもライバル企業の動向や自社製品の開発などに目を向けがちです。
しかし新規事業の成功は、参入タイミングによる影響が大きく、参入時期の政治や経済といった「マクロ環境」の動向をしっかりと見極める必要があります。
そういったマクロ環境の分析に有効な手法が、この「PEST分析」です。具体的には、以下の4項目に沿って分析をしていきます。
P:Politics「政治」
E:Economy「経済」
S:Society「社会」
T:Technology「技術」
前述の3C分析の市場分析でも、マクロ環境について材料集めをしなければなりませんが、その際にもこのPEST分析で導いたマクロ環境のデータが大いに役立ちます。
経営資源が多い企業にオススメ「VRIO分析」
VRIO分析は、以下にあげた4つの観点から、自社のリソースを分析する手法です。
V:Value「経済的な価値」
E:Rarity「希少性」
I:Imitability「模倣可能性」
O:Organization「組織」
同じように自社環境を分析する手法に、前述のSWOT分析があります。両者の違いですが、SWOT分析が内部要因と外部要因の両面から分析するのに対して、VRIO分析はあくまでも内部環境(自社リソース)から分析をおこないます。
つまりVRIO分析は、あくまでも内部環境である「自社の経営リソース」がベースであり、ライバル企業にはない自社の強みの明確化が、VRIO分析をおこなう目的です。
成功する新規事業の戦略を立てるポイント
ここまで、新規事業の戦略に役立つフレームワークを紹介してきました。最後にこの章では、フレームワークの結果を最大限活用するためのポイントを3点解説していきます。
- できるだけ競合の少ないブルーオーシャン市場で戦う
- 「◯◯といえば、あの商品」売れるビジネスコンセプトの選定
- 「誰に・何を・どうやって売る」を徹底的に考える
いくら丁寧に分析をしても、その分析結果を活用できなければまったく意味がありません。上記3点は、どれも新規事業戦略に欠かせないものばかり。ひとつずつしっかりと検討してみてください。
できるだけ競合の少ないブルーオーシャン市場で戦う
前述のSWOT分析やVRIO分析の結果、かりに圧倒的な差別化が可能だとしても、決していきなり競争の激しい「レッドオーシャン市場」には参入しないでください。
理由は単純。どんなに強みがあっても、知名度と資金力に勝る大手企業に真正面から戦いを挑めば、まず100%勝てる見込みがないからです。
企業体力で劣る私たち中小企業は、ライバルの少ない「ブルーオーシャン市場」で新規事業を展開するのが、もっとも賢く安全な戦略だと思いませんか。
とはいえ、誰でもそう簡単に、ブルーオーシャン市場へ参入できるわけではありません。ブルーオーシャン市場でシェアを取るには、やはりそれなりの差別化が不可欠です。
差別化に関しては次の項目で詳しく解説しますが、まずはブルーオーシャン市場でNO.1企業になり、知名度と資金を増やすのが先決です。もし将来的にレッドオーシャン市場で事業を展開するにしても、この順番は必ず守ってください。
「◯◯といえば、あの商品」売れるビジネスコンセプトの選定
中小企業が新規事業で成功するには、並みいるライバル企業の商品(サービス)に打ち勝つ必要があります。そのためにも、商品の差別化を明確に市場へ打ち出していかなければなりません。
差別化を検討する際には、「◯◯といえば、あの商品」のように、ひとことでビジネスの特徴を表せるかどうか考えてみてください。
世の中のヒット商品を見渡してみても、どれもビジネスコンセプトが明確なものばかりです。
「10円で買えるお菓子といえば、チロルチョコ」
「女性専用の30分フィットネスといえば、カーブス」
「リゾートといえば、星野リゾート」
もちろんどの分野でも、有名な競合会社はたくさんあるでしょう。しかし、それでも多くの人が、上記の会社名(商品名)をすぐに思い浮かべるはずです。それくらい、一度できあがったビジネスコンセプトの威力は、凄まじいものがあります。
「誰に・何を・どうやって売る」を徹底的に考える
フレームワークの結果をもとに、ビジネスコンセプトで差別化が明確になれば、今度は「売れるビジネスモデル」を構築していきます。
どんなに需要のあるよい商品でも、「誰に・何を・どうやって売る」が決まっていないと、消費者に選んでもらえません。
なかでも、もっとも重要になるのが、「誰に売るか」です。多くの経営者は、とにかくたくさんの消費者に購入してもらおうと考えますが、この考え方をしている限り、商品は思っているようには売れないでしょう。
なぜなら、万人受けを狙った商品は、消費者の目には中途半端に写ってしまうからです。
それよりも、ターゲットはできるだけ絞ってください。不思議なもので、ターゲット層を絞れば絞るほど、コアなファンに商品を買ってもらえるようになります。
弊社で経営する美容化粧品ブランドを例にあげると、ただの美容クリームではなく、あごのニキビ専用のクリームを発売したところ、わずか1年で5億円も売り上げました。これも、あごのニキビに悩んでいる人に、ターゲット層を絞ったおかげです。
この事例については、別記事で紹介していますので、よかったらそちらの記事も確認してみてください。
まとめ
新規事業の戦略を立てる際には、アンゾフの成長マトリクスをはじめ、各種フレームワークの活用は外せません。
フレームワークをうまく活用できれば、頭のなかでモヤッとしているアイデアやイメージが、はっきりと明確化されてきます。その分析結果をもとに、今回紹介した流れで新規事業の戦略を立てれば、大きく方向性がズレることはありません。
なお、分析結果の活用法についてさらに詳しく知りたいのであれば、弊社の「無料Webセミナー」がオススメです。これから新規事業の戦略を立てようとお考えのかたは、ぜひお気軽にご参加ください。